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ポリメトキシフラボノイドの抗メタボリックシンドローム作用
ポリメトキシフラボノイドの抗メタボリックシンドローム作用
抗メタボリックシンドローム作用の分類
ポリメトキシフラボノイドの抗メタボリックシンドローム作用には、次のようにさまざまな働きがあります。
- 脂肪細胞に対する作用(分化誘導促進やアディポネクチン増加など)
- 脂質代謝改善
- 血糖値上昇抑制
- 血圧上昇抑制
これらの作用については、研究方法から表1のように分類できますが、本章では便宜上、まずin vitro 試験、動物試験およびヒト試験の分類で分け、その中でいろいろな作用について記載します。
なお、現在行われている研究のほとんどが、ノビレチンまたはシイクワシャーの加工品によるものです。
作用 | 試験の対象 | ノビレチン | シイクワシャーの加工品 |
---|---|---|---|
脂肪細胞に対する作用 | in vitro | ● | - |
動物 | ● | ● | |
ヒト | - | ● | |
脂質代謝改善 | in vitro | ● | - |
動物 | ● | ● | |
ヒト | - | ● | |
血糖値上昇抑制 | in vitro | - | - |
動物 | ● | ● | |
ヒト | - | ● | |
血圧上昇抑制 | in vitro | - | - |
動物 | ● | ● | |
ヒト | - | ● |
in vitro 試験
脂肪細胞に対する作用
研究 1
前駆脂肪細胞3T3-L1に対してインスリン刺激により分化を誘導するとき、ノビレチンは濃度依存的に脂肪細胞分化を促進しました。
研究 2
脂肪細胞分化処理して3日後、脂肪細胞に特徴的な数種の遺伝子の発現をリアルタイムPCRにより定量すると、ノビレチンによる脂肪細胞分化の促進に伴い、核内受容体であるペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体PPARγ、脂肪酸結合タンパク質aP2、脂肪滴形成に関与するPerilipin (ペリリピン)、エネルギー代謝を正常に保つ働きがあるAdiponectin (アディポネクチン)の発現も亢進しました(図1)。
図1.ノビレチンによる脂肪細胞分化関連遺伝子の発現促進
con;コントロール、Nob;ノビレチン(60μM)、*p<0.05、**p<0.01
参照サイト ≫ かんきつ成分ノビレチンは脂肪細胞の分化と脂肪細胞中の脂肪分解を促進する
脂質代謝改善
研究 1
常法により分化させた脂肪細胞に対しノビレチンを添加し、脂肪分解により培地中に放出されたグリセロールの量を経時的に測定したところ、ノビレチンは刺激後比較的早い時間 (6 h)でも濃度依存的に脂肪分解を促進しました (図2)。
図2. ノビレチンによる脂肪分解促進効果
*p<0.05、**p<0.01
参照サイト ≫ かんきつ成分ノビレチンは脂肪細胞の分化と脂肪細胞中の脂肪分解を促進する
研究 2
ヒト培養肝細胞(HepG2)にノビレチンを与えることにより濃度依存的にリポタンパク質(VLDL)の分泌が抑制されました。また、ヒトMTPやCETPなどのリポタンパク質分泌・代謝に関わる脂質転送タンパク質の活性はノビレチンによって抑制されました。
動物試験
脂肪細胞に対する作用
アディポネクチン増加
自然発症糖尿病マウス(KK-Ay)(6週齢、雌)を用い、コントロール群およびノビレチン(NOB)群の2群(各群n=6)でコントロール群には高脂肪食のみ、NOB群はノビレチン0.02%を含有させた高脂肪食を摂取させ、開始27または28日後に血清を採取し、アディポネクチンを測定しました。
その結果、NOB群の血清アディポネクチンは、コントロール群と比較して有意に増加しました(図3)。
図3. アディポネクチンの変化
平均値±SE 、*:p<0.05
内臓脂肪減少(精巣周囲脂肪減少)
6週齢の雄性SD ラット(各群n=6) を用い、ノビレチン(25,50および100mg/kg)、シイクワシャーエキス(250,500および1000mg/kg)に対照群を加えた計7群 で28日間反復強制経口投与試験を行いました。
その結果、ノビレチン100mg/kg、シイクワシャーエキス500mg/kgおよび1000mg/kgの群で精巣周囲脂肪量が有意に減少しました。
図4. 内臓脂肪量(精巣周囲脂肪量)の変化
平均値±SE、*:p<0.05、**:p<0.01(Dunnett)
脂質代謝改善
研究 1
4週齢の雄性SD ラット(各群n=6) を用い、高脂肪食(20% ラード含有のAIN-93 食に1 % コレステロールを添加) をコントロール群、それにノビレチン0.1%またはシイクワシャーエキス1%を加えた食餌をそれぞれノビレチン群およびシイクワシャーエキス群として合計3群で28日間のpair-feeding を行いました。
その結果、コントロール群と比較してノビレチン群およびシイクワシャーエキス群は血漿トリグリセリドが有意に減少し(図5)、同様にHDLコレステロールが有意に増加しました(図6)。
図5. トリグリセリド(中性脂肪)の変化
平均値+SE 、*:p<0.05
図6. HDLコレステロールの変化
平均値+SE、*:p<0.05
研究 2
自然発症糖尿病(肥満)マウス(KK-Ay)にノビレチンを投与したところ、血清LDLコレステロール値の低下、HDLコレステロール値の上昇が確認されました。肝臓における脂質代謝関連の遺伝子の発現についても検討した結果、いくつかの遺伝子の発現に変動が見られました。
血糖値上昇抑制
ノビレチン20mg/kgまたはシイクワシャー果汁1mL/kgを投与することによって、自然発症糖尿病マウスの血糖値上昇を有意に抑制しました(図7)。
図7. KK-Ay自然発症糖尿病マウスの血糖値上昇に及ぼすノビレチン(20mg/kg)・シイクワシャー果汁(1mL/kg)の影響
参照サイト ≫ 沖縄特産カンキツであるシィクワシャーの血圧・血糖値上昇抑制効果
血圧上昇抑制
ノビレチン20mg/kgまたはシイクワシャー果汁1mL/kgを投与することによって、自然発症高血圧ラットの血圧上昇を有意に抑制しました(図8)。
図8. SHR自然発症高血圧ラットの血圧上昇に及ぼすノビレチン(20mg/kg)・シイクワシャー果汁(1mL/kg)の影響
参照サイト ≫ 沖縄特産カンキツであるシィクワシャーの血圧・血糖値上昇抑制効果
ヒト試験
脂肪細胞に対する作用(アディポネクチン増加)
CTによる計測で内臓脂肪面積が100cm2以上(メタボリックシンドローム予備群)の成人男女32名を対象としました。Double blind並行群間比較試験として、シイクワシャーエキス粉末3,300mg/day(ノビレチン50mg/dayおよびタンゲレチン50mg/day)またはプラセボ食を8週間連続摂取したところ、摂取前から摂取8週後の血清アディポネクチンは、被験食群が有意(p=0.022)に増加し、群間の比較においても、被験食群の変化量はプラセボ食群のそれに比べて有意(p=0.019)に高値でした(図9)。
図9. アディポネクチンの変化(被験食群:16名、プラセボ食群:16名)
平均値+SE、t検定
脂肪細胞への作用、脂質代謝改善、血糖値上昇抑制および血圧上昇抑制
研究 1
健康な女子学生12名を対象として、シイクワシャーペースト70g/dayおよびシイクワシャー果皮20g/dayの負荷を10日間行ったところ、耐糖能の改善並びに拡張期血圧の低下が認められました(耐糖能:空腹時血糖、インスリン、C-ペプチドおよびHOMA-R)。
研究 2
肥満中高年女性10名を対象として、シイクワシャーペースト負荷を35日間行ったところ、体脂肪率、レプチン、インスリン、HbA1cおよびHOMA-Rが有意に低下しました。
メカニズム
in vitro試験では、ノビレチンが前駆脂肪細胞3T3-L1およびST-13に作用し、脂肪細胞への分化が促進され、アディポネクチンの分泌が増加したことから、ノビレチンはPPARγを直接あるいは間接的に活性化しているものと考えられます。
動物実験においてもノビレチン投与によりアディポネクチンの分泌量は有意に増加したことから、in vitroと同様のメカニズムであると仮定すると、ノビレチンは腸管から吸収後、未変化体のまま門脈周囲の脂肪細胞に作用し、アディポネクチンの分泌量を増加させ、抗メタボリックシンドローム作用を発揮する可能性が推察されます。
一方、ノビレチンには複数の代謝物がありますが、それらの抗メタボリックシンドローム作用についてはまだ報告がなく、今後の課題と考えています。
参照ページ ≫ ノビレチンの代謝物について
脂質代謝改善(トリグリセリドおよびLDLコレステロールの減少並びにHDLコレステロールの増加)については、発現遺伝子の解析などが行われていますが、現在のところ明確にはなっていません。
血糖値上昇抑制については、アディポネクチンの増加によるインスリン感受性の改善が考えられますが、確認はされていません。
これらのメカニズムの解明に向けて、現在アークレイは検討を行っています。新たな知見が得られましたら、本ホームページにて報告いたします。
参考文献
- 矢野昌充:農業技術 57(1):30~33, 2002
- 太田英明:Techno Innovation 11(5):21~25, 2001
- 農林水産研究情報総合案内
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/tarc/2007/wenarc07-18.html
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/fruit/1999/fruit99-09.html - 特願WO 2006/049234(アークレイ株式会社)
- 森山達哉ら:日本農芸化学会2005年度大会講演要旨集:29E123α, 2005
- アークレイ株式会社社内資料
- 河合博成ら:第39回日本動脈硬化学会学術集会抄録集:275, 2007
- 中村学園大学資料
- 倉貫早智ら:日本薬学会第127年会要旨集:28P1-am060, 2007
- K.Kunimasa et al:Bioorg .Med.Chem.Lett. 19:2062~2064, 2009