製品解説

ビレチンの睡眠の質改善作用

  • HOME
  • ビレチンの睡眠の質改善作用

ビレチンの睡眠の質改善作用

はじめに

私たちが暮らしている地球は24時間で自転している。そして地球上のほぼすべての生物は進化の過程で、この24時間周期のリズムを生体内に取り入れてきた。もちろん人間にもこの約24時間の体内リズム(概日リズム)が備わっており、そのリズムは体内時計(時計遺伝子)によって制御されていることが知られている。

これまでの研究によって、体内時計が乱れることで睡眠不足や時差ボケの状態が引き起こされて日常生活で仕事の能率が落ちたり、運動パフォーマンスが低下したりすることが分かっている。さらに睡眠障害や時差ボケだけでなく、糖尿病や脂質異常症、一部の癌などの疾病にも体内時計が関連していることが報告されている 1-2)。したがって、体内時計の乱れを防ぎ、乱れた体内時計をリセットすることは睡眠の質を改善するだけでなく、様々な疾病リスクを低減することが期待できる。

時計遺伝子の重要性~体内時計と睡眠~

私たち人間の体内時計はひとつではなく、臓器や末梢組織などありとあらゆる部位でそれぞれの役割に応じてリズムを刻んでいる 3)。その中でも脳の視交叉上核は全身をコントロールする親時計(中枢時計)として機能しており、光で時計を調整している。一方、臓器や末梢組織などの体内時計(末梢時計)は主に食事(特に朝食)が時計の調整に重要であることが報告されている。体内時計のリズムはしばしば振幅、周期長、位相といった波の性質で説明される。体内時計は約24時間のリズムを刻んでおり、振幅と周期長の調節によって昼は覚醒状態を保ち、夜は睡眠状態を誘導するリズムが保たれる。また、海外旅行や夜勤、夜更かしなどによって視交叉上核の中枢時計と全身に分布する末梢時計のリズムがずれてしまい時差ぼけや社会的時差ぼけ(社会的ジェットラグ)が引き起こされることが知られているが、これらのずれを調節(位相を調節)する機能が体内時計には備わっている。

体内時計は老化によって周期が短くなり、振幅が小さくなることが知られている4)。歳をとると眠りが浅くなったり、若い頃よりも早寝早起きになったりするのはこのためである。また、生活習慣によっても振幅、周期長、位相は変化してしまうことが分かっている。これまでの研究で、体内時計の乱れによって引き起こされるのは睡眠障害だけでなく、うつ病や糖尿病や脂質異常症などの疾病の要因であることが報告されている。したがって、体内時計の乱れを正常化することは睡眠の質を改善するだけでなく、様々な疾病を予防することが期待できる。

これまでに不眠症などの睡眠障害において睡眠の質を改善するため、特に寝られない時に睡眠を促すためにしばしば睡眠導入剤が使用されてきた。それらは医薬品のみならず、植物などの食品からも類似の効果が認められる化合物がいくつか探索されてきた。それら食品の効果、作用メカニズム、安全性などが確かめられたものが機能性表示食品の関与成分として届出がされている。

現時点(2020年8月25日)で、機能性表示食品において睡眠関連の届出受理件数は190件にのぼっており、機能性関与成分も複数種登録されている。それらの睡眠の質の改善作用は大部分が睡眠を誘引したり、リラックス効果をもたらしたりするメカニズムで発揮される。一方で、近年注目されている体内時計や時計遺伝子に作用するメカニズムをもつ関与成分の機能性表示食品は存在しない。しかしながら、これまでの研究によってシイクワシャーなどの柑橘類に含まれるノビレチン5) やコーヒーなどに含まれるカフェイン 6-7)、緑茶に含まれるエピカテキンガレート 8) など時計遺伝子に作用する食成分もみつかっている。今後、時計遺伝子に対して作用する化合物のヒトに対する健康や睡眠への影響が明らかとなって、機能性表示食品として届出されることが期待される。

ビレチンがもつ睡眠の質の改善作用

柑橘類の一種であるシイクワシャーにはノビレチン、タンゲレチンと呼ばれるポリメトキシフラボノイド(PMF)に分類される化合物が含まれている。これまでにノビレチンにはダイエット効果 9-10) や肝機能改善効果 11)、認知機能改善効果 12-13)、運動機能改善効果 14) など様々な機能が報告されている。さらに近年ノビレチンおよびタンゲレチンには時計遺伝子に作用する機能をもつことが分かってきた 5, 15)

これまでの報告では細胞および組織を用いたin vitro試験においてノビレチン、タンゲレチンが時計遺伝子に作用して周期の延長、振幅の増大および位相の変動を起こすことが認められた。これらの作用はノビレチンが核内受容体RORに直接結合してRORを活性化させ、時計遺伝子Bmal1の発現を亢進するためであると示されている。さらにBmal1は脂質代謝に関与しており、ノビレチンはRORを介してBmal1発現を亢進することで脂質代謝を制御することが示唆された 5)

当社はin vitro試験の知見に基づき、ノビレチンおよびタンゲレチンを含むポリメトキシフラボノイド(PMF)を規格したシイクワシャーエキス『ビレチン』を用いてヒトに対する睡眠の質の改善作用の検証を実施した。

ビレチン(一般名:シイクワシャーエキス)はシイクワシャー果実から抽出されたエキスであり、機能性成分であるノビレチン、タンゲレチンを濃縮して規格化(PMF10%以上(無水物として):ノビレチンとタンゲレチンの合計)している。

ビレチンの睡眠の質の改善効果および健康関連QOL改善効果を検証するために、プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比較試験を実施した。被験者は健常な成人男性(28~41歳)4名を対象とし、ソフトカプセルのビレチン含有食品(ビレチン20 mg/日、PMF 2 mg/日相当)またはプラセボを以下のスケジュールで就床1時間前に摂取した。

表1 試験スケジュール

具体的には、試験2日目~7日目にビレチン含有食品もしくはプラセボを摂取し、ウォッシュアウト期間を8日間はさんで、試験16日目~21日目にもう一方の試験食を摂取した。評価方法は試験1日目~22日目の起床時にOSA睡眠調査票MA版と疲労感VASを用いたアンケートを実施した。また、アンケートに加え脳波センサを用いて脳波測定を実施した。

その結果、ビレチン摂取時はOSA睡眠調査票における「疲労回復」の項目で有意または有意傾向をもって改善した。また、「入眠と睡眠維持」の項目でも有意または有意傾向をもって改善が認められた。さらに疲労感VAS検査では4名のうち3名でビレチン摂取時に起床時の疲労感が有意に軽減しており、OSA睡眠調査票の結果と一致した。

図1 睡眠の質の評価アンケート(OSA睡眠調査票MA版) # p < 0.1, * p < 0.05

脳波センサZA-X(株式会社プロアシスト)による脳波解析の結果、1名が有意に就寝時の中途覚醒の割合が減少し、ほか2名も有意差は認められなかったが中途覚醒の割合は減っていることが分かった。脳波の結果は測定日数が少なかったことや被験者全員が比較的若く(28~41歳、平均32.8歳)、生活リズムの乱れや不眠症状、睡眠時の不調を訴える方もおらず初期健康状態が良かったため、各種評価項目の有意な改善はほぼ認められなかったが、中途覚醒では一部被験者の有意な改善が確認できた。

図2 睡眠中の脳波結果(中途覚醒の割合)

これらの結果から、ビレチンは臨床研究において睡眠の質が向上し、起床時の疲労感が軽減することがアンケート調査および脳波解析によって認められた。これらの効果は時計遺伝子に作用するノビレチンおよびタンゲレチンによるものであると考えられ、睡眠を誘導するような従来の睡眠改善素材と組み合わせることで相乗効果も期待できる。

参考文献
    1. Fujino Y, et al., Am. J. Epidemiol., 2006, 164(2), 128-135
    2. Kubo T, et al., Occup. Environ. Med., 2011, 68(5), 327-331
    3. Ramsey KM, et al., Annu. Rev. Nutr., 2007, 27, 219-240
    4. Kunieda T, et al., Circ. Res., 2006, 98(4), 532-539
    5. He B, et al., Cell Metab., 2016, 23(4), 610-621
    6. Narishige S., et al., Br. J. Pharmacol., 2014, 171(24), 5858-5869
    7. Burke TM, et al., Csi. Transl. Med., 2015, 7(305), 305ra146
    8. Mi Y, et al., Biochim. Biophys. Acta Mol. Basis Dis., 2017, 1863(6), 1575-1589
    9. Saito T, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2007, 357(2), 371-376
    10. Lee YS, et al., J. Nutr. Biochem., 2013, 24(1), 156-162
    11. Choi BK, et al., Phytother. Res., 2015, 29(10), 1577-1584
    12. Onozuka H, et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 2008, 326(3), 739-744
    13. Nakajima A, et al., Clin. Psychopharmacol. Neurosci., 2014, 12(2), 75-82
    14. Nohara K, et al., Nat. Commun., 2019, 10(1), 3923
    15. Shinozaki A, et al., PLoS ONE, 2017, 12(2), e0170904