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AGEsの分解・代謝促進による治療的な抗糖化素材サトナシールの効果

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AGEsの分解・代謝促進による治療的な抗糖化素材サトナシールの効果

はじめに

糖化反応はメイラード反応とも呼ばれ、アミノ酸・タンパク質と還元糖の非酵素的化学反応である。近年、糖化反応が進行して最終的に生成するAGEs(advanced glycation end products:糖化最終生成物)は様々な疾病と関連することが報告されている 1)。また、アンチエイジング医学において酸化ストレス、生活習慣、免疫機能、心身ストレスに並んで糖化ストレスは老化危険因子のひとつに位置付けられている 2)。したがって、糖化ストレスを抑えることは生活の質(QOL)の向上と健康長寿に寄与することが期待できる。

食品業界における抗糖化

グルコースなどの糖はヒトの重要なエネルギー源のため、糖化ストレスは生きていくうえで避けることが難しい老化危険因子である。糖化ストレスの対策として、①食後高血糖の抑制(血中の糖を増やさない)、②糖化反応の抑制(AGEsをつくらせない)、③生成したAGEsの分解・排泄(AGEsを蓄積しない)などがあり、近年それらを目的とする抗糖化素材が食品および化粧品の各業界で研究・開発されている。

図1 糖化ストレス対策のための抗糖化アプローチ

食品において“抗糖化”の概念が広がる前から存在する難消化性デキストリンなどの血糖上昇抑制作用をもつ素材を抗糖化素材の第0世代とすると、次いで、糖化反応を阻害してAGEs生成を抑制する素材(第1世代)が登場し、抗糖化市場が誕生した。現在、食品や化粧品で抗糖化を謳った製品が使用する抗糖化素材の大部分が第1世代であり、“予防”的な抗糖化が期待できる。代表的なものにAGハーブMIX(アークレイ)、桜の花、マンゴスチン、紫菊花がある。

糖化反応を阻害してAGEsの生成を抑制する“予防”的なアプローチに対して、近年ではAGEsを分解および代謝を促して体内からAGEs蓄積を低減する“治療”的な作用をもつ素材が見出されてきている。まず着目したのは、AGEsによる身体への悪影響の一因であるタンパク質架橋である。ヒトのタンパク質の約30%がコラーゲンであり、皮膚や骨、毛髪、血管など広く分布していることが知られている。コラーゲンが糖化すると分子内および分子間でAGEsによる架橋を形成してしまい、コラーゲン線維の硬化や代謝回転の遅延が引き起こされる。すでにAGEsが関与する架橋構造を分解する化合物としてN-フェナシルチアゾリウムブロミド(PTB)が報告されているが 3)、同様の作用を有する食品素材がこれまでに探索されてきた。そして、ヒシなどのAGEs架橋を分解する第2世代の抗糖化素材が誕生した。

そして最近、次世代の糖化ストレス対策として着目されているのが酸化タンパク質分解酵素(oxidized protein hydrolase:OPH)である。OPHは酸化ストレス、糖化ストレスによってダメージを受けたタンパク質の分解に関与することが知られており、ヒトの体内に存在するOPHはAGEsを分解することが報告されている 4)。そこで、新たな糖化ストレス対策のアプローチとしてOPH活性の増強作用をもつ素材探索が行われてきた。そして、見出された素材がサトナシール(アークレイ)である。AGEsの分解に着目したとき、茶に含まれるカテキンやハーブの一種であるタイムなどは高いAGEs架橋の切断作用をもつが、OPH活性は阻害してしまうことが分かっており、AGEs架橋の切断作用とOPH活性の増強作用がともに高い作用をもつ素材を見出すことが効率的なAGEs分解・代謝促進に重要である。サトナシールはOPH活性の増強作用およびAGEs架橋の切断作用を評価項目として開発された製品であり、第3世代の抗糖化素材として2018年秋に上市された。

表1 抗糖化素材の拡大

サトナシールの開発経緯 5)

AGEs生成の抑制による予防的な抗糖化を目的として開発されてきた抗糖化素材だが、このメカニズムではすでに体内に蓄積してしまったAGEsへの効果が不明である。そこでアークレイはAGEsの分解作用に着目して、“治療”的な抗糖化素材を開発するため研究を行ってきた。

AGEsの分解作用の指標として、AGEs架橋の切断作用および酸化タンパク質分解酵素(OPH)の活性増強作用を用いて200種以上の植物原料(野菜、果物、ハーブ、スパイス)を評価した。その結果、AGEs架橋の分解作用、OPH活性増強作用ともに高い活性をもつ3種類のハーブ(フェヌグリーク、フェネル、ハイビスカス)を見出し 5)、それらを独自配合して熱水抽出粉末化した『サトナシール』を開発した。

一方、サトナシールの糖化反応の抑制作用は、in vitro試験においてAGEsであるペントシジンやカルボキシメチルリジン(CML)、AGEs中間体である3-デオキシグルコソン(3DG)に対する生成抑制作用が認められている。
また、AGEs架橋の切断作用はVasanらの評価系 3) を用い、1-phenyl-1,2-propanedione(PPD)をモデル化合物としてα-ジケトン構造の分解をみた結果、ポジティブコントロールであるN-フェナシルチアゾリウムブロミド(PTB)と同様にAGEs架橋の切断作用がフェネルで認められ、PTBに比べて弱いながらもフェヌグリーク、ハイビスカスも切断作用が認められた。さらにサトナシールでもAGEs架橋の切断作用が確認された。α-ジケトン構造は3DGやグリオキサール、メチルグリオキサールなどの反応性が高いAGEs中間体がもつ骨格であり、この結果から生体内で生成したAGEs中間体の直接的な分解も期待できる。

図3. AGEs架橋切断作用の評価方法

AGEsを分解することが報告されている生体内酵素であるOPHは、加齢とともに活性が低下することが知られている 4)。そこで体内のOPH活性を増強することは、老化物質であるAGEsを分解・代謝を維持してアンチエイジングへの貢献が期待される。そこで八木らの方法 4) で酵素OPHとそのモデル基質としてN-アセチル-L-アラニンp-ニトロアニリド(AAPA)を用いて評価した。その結果、フェヌグリーク、フェネル、ハイビスカスでOPH活性の増強作用が認められ、サトナシールでも同様に増強作用が認められた。

図4 (上) OPH活性と年齢および皮膚AGEs蓄積量の関係4) (下) OPH活性の評価方法


図5 フェヌグリーク、フェネル、ハイビスカスの抗糖化作用

OPH活性の増強作用に着目して開発されたサトナシールは、2018年秋アークレイが上市した。サトナシールのようにAGEs架橋の切断作用とOPH活性の増強作用の2点に着目して開発された抗糖化素材はこれまでになく、より“治療”的なアプローチで抗糖化によるアンチエイジングが期待できる。

サトナシールの機能性研究 6)

in vitro試験で認められた抗糖化作用をヒト試験で検証した。評価項目は糖化指標として血中のAGEs(カルボキシメチルリジン(CML)、ペントシジン)やAGEs中間体である3-デオキシグルコソン(3DG)、皮膚関連検査での美容評価としてVISIAによる肌画像解析を実施した。他にも脂質代謝関連や糖代謝関連を評価し、同時に安全性評価のための身体測定や血液検査などを実施した。試験は、年齢40歳以上65歳未満の女性で皮膚AGEs沈着量の多い人を被験者として選定後、サトナシールを1日100mg摂取する群(低用量群)と300mg摂取する群(高用量群)に分けて試験食を連続12週間摂取した。検査は摂取前、摂取6週目、12週目で実施した。
その結果、低用量群、高用量群ともに糖化指標であるペントシジンで有意な低下が認められ、さらに糖代謝関連の空腹時血糖の低下も認められた。また、高用量群ではインスリン抵抗性の改善(HOMA-IRの低下)、肝機能の改善(AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、ALP)が認められた。
これらの結果から、サトナシールは臨床試験においても抗糖化作用が認められ、糖化ストレス対策に有用であることが期待される。さらに糖代謝の改善や肝機能の改善も認められ、生活の質(QOL)の向上に寄与すると考えられる。

参考文献
    1. Ichihashi M, et al. Anti-Aging Medicine, 2011, 8(3), 23-29.
    2. 米井嘉一ほか, COSMETIC STAGE, 2011, 5(7), 16-22.
    3. Vasan S, et al. Nature, 1996, 382(6588), 275-278.
    4. Yagi M, et al. Glycative Stress Research, 2017, 4(3), 184-191.
    5. 所司原雅子ほか, 第17回日本抗加齢医学会総会, 2017
    6. 湯浅英司ほか, 第18回日本抗加齢医学会総会, 2018