学術情報
ポリメトキシフラボノイドの特徴
ポリメトキシフラボノイドの特徴
ポリメトキシフラボノイドの健康増進作用
ポリメトキシフラボノイドについては、現在、様々な研究が行われていて、多くの健康増進作用が見つかっています。なお、ポリメトキシフラボノイドのうちノビレチンの研究が最も進んでいて、報告の多くがノビレチンに関するものです。
がんに対する作用
- 発がん抑制
- がん細胞増殖抑制
- 抗がん剤の作用増強
- がん細胞のアポトーシス促進
- 白血病細胞分化誘導活性
メタボリックシンドロームに対する作用
- アディポネクチン分泌促進
- 抗動脈硬化
- 脂質代謝改善
- 血圧上昇抑制
- 血糖値上昇抑制
炎症関連に対する作用
- 炎症メディエーターの産生抑制
- マトリックスメタロプロテアーゼ産生抑制
- TIMP-1産生促進
→ 関節リウマチや変形性関節症の改善および予防
→ 紫外線が誘発する皮膚の炎症の抑制
→ 増殖糖尿病網膜症の改善
アルツハイマー病の予防および治療
- 記憶障害改善作用
- 脳コリン作動性神経の変性抑制作用
- 脳内でのβアミロイドの蓄積抑制作用
- アミロイドβ(βアミロイド)の神経毒性抑制作用
強心作用
食経験
ポリメトキシフラボノイドはカンキツ類の果皮に多く含まれます。
マーマレード
カンキツ類の果皮は、古くからマーマレードに加工されてヒトに食されています。
そして、マーマレードが現在のようなレシピになったのは18世紀と言われていますので、200年以上の食経験があります。
陳皮など
漢方薬の陳皮(チンピ)、橘皮(キッピ)、青皮(セイヒ)はカンキツ類の果皮なので、ポリメトキシフラボノイドが多く含まれています。これらは、神農本草経の上品1) として収載されていますが、神農本草経が編纂されたのが西暦紀元前後とされていますので、2000年以上の食経験があると言えます。
また、陳皮は香辛料としても、七味唐辛子の中で身近に広く使われています。七味唐辛子は江戸時代から食されています。
1) 上品は養命薬(生命を養う目的の薬)で、無毒で長期服用可能。身体を軽くし、元気を益し、不老長寿の作用があります。
体内動態
吸収
ラットにノビレチンまたはタンゲレチン(50mg/body)を1回経口投与後、2日間の糞中未変化体(未吸収分と考えられる)を定量したところ、ノビレチンでは投与量の0.1%、タンゲレチンでは投与量の20~30%であったことから、ノビレチンは投与された量のほとんどが吸収されたものと考えられました。
代謝
動物の代謝(in vitro)
ラット、モルモットおよびハムスターの肝臓から得られたミクロゾーム分画を用いてノビレチンの代謝物を調査したところ、いずれの動物でも図1のような5種類(M-1~M-5)の脱メチル化代謝物が生成されました。このうち主代謝物は、ラットとハムスターでは7-OH体(M-2)でしたが、モルモットでは4′-OH体(M-1)でした。
図1. 動物の肝臓におけるノビレチンの代謝経路の仮説
(N. Koga, et al:Biol. Pharm. Bull. 30(12):2317~2323, 2007より)
また、10種類の P450(CYP1A1, CYP1A2, CYP2A1, CYP2B1, CYP2C11, CYP2C12, CYP2D1, CYP2E1, CYP3A1, CYP3A2)がノビレチンの代謝にどのように関わっているかが調査され、結果は図1のようになりました。
動物の代謝(in vivo)
マウスにおいて、ノビレチンの尿中代謝物が調べられました。
代謝物は、3′-OH 体、4′-OH 体と 3′,4′-diOH 体でした(図2)。
図2. ノビレチンとその代謝物の構造(マウス)
(Li S, et al:Bioorg. Med. Chem. Lett. 17:5177~5181, 2007より)
ラットにノビレチン(50mg/body)を1回経口投与後、2日間の尿中および糞中代謝物を定量したところ、尿中には図1の検討と同様にM-1~M-5の代謝物が検出され、このうち 4′-OH 体(M-1)が最も多く全代謝物の70~80%を占めていました(前述のin vitroの検討と、この尿での検討ではラットの主代謝物が異なります)。
また、糞中にも4種類の代謝物が検出され、4′-OH 体(M-1)が投与量の約2%で最も多く、次いで 3′,4′-diOH 体(M-4)、7-OH 体(M-2)および 6-OH 体(M-3)の順でした。
ヒトの代謝
シイクワシャー果皮ペーストを摂取したヒトの24時間蓄尿によって尿中の代謝物が調べられました。
検出された9種類の代謝物のうち、主要なものはノビレチンの4′-OH体と3′,4′-diOH体およびタンゲレチンの4′-OH体で、それぞれ全代謝物量の15%、23%および23%を占めていました。また、ノビレチン、タンゲレチンおよびシネンセチンの未変化体は全く検出されませんでした。
これにより、ヒトと実験動物では代謝パターンおよび代謝物の生成量の点でかなり異なることが示されました。
排泄
ラットにノビレチン(50mg/body)を1回経口投与後、2日間の尿中および糞中の代謝物および未変化体を定量した検討では、ほとんどが代謝物として尿中へ排泄され、一部が代謝物として糞中へ排泄されることがわかりました。
構造上の特徴
メトキシ基
ポリメトキシフラボノイドには、他のフラボノイドに多く見られる配糖体が存在しません。これは、水酸基が全てメチル化されてメトキシ基になっているからで、それによって疎水性が強くなっています。
代謝による活性の増強
抗炎症作用は、ノビレチンそのものよりも代謝によって作用が増強されることが認められています。
ノビレチンの 3′-OH 体、4′-OH 体および 3′,4′-diOH 体はノビレチンと比較して、LPS処理したRAW 264.7 マクロファージにおいて iNOS、COX-2 の発現を mRNA、タンパクレベルのいずれもより強く抑制し、また一酸化窒素の産生もより抑制しました。
作用に関係する官能基の種類・位置・数
抗発がんプロモーション活性
次のような傾向が報告されています。
- a) メトキシ基の増加に伴って活性の強化が認められる。
- b) 水酸基よりもメトキシ基を有する化合物の方が強い活性を示す。
- c) メトキシ基の結合位置による大きな差異は認められない。しかし、3位にメトキシ基を持つ化合物は、この位置にメトキシ基を持たない化合物に比べて強い活性を示すことから、活性発現に重要と考えられる。
前駆脂肪細胞分化誘導活性
6位と3′ 位のメトキシ基が重要であると報告されています。
参考文献
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- 今田啓介ら:果樹試験研究推進協議会会報 8:7~10, 2008
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- 十一元晴:YAKUGAKU ZASSHI 125(3):231~254, 2005
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