学術情報
β-クリプトキサンチンの発がん抑制作用
β-クリプトキサンチンの発がん抑制作用
発がん抑制作用のメカニズム
β-クリプトキサンチンが発がんを抑制する作用として、現在のところ考えられているメカニズムは以下のとおりです。
イニシエーション段階の抑制
- 抗酸化物質として、活性酸素(DNAを損傷し、発がんのきっかけとなる物質)に対して、消去能があります。
- 活性酸素の一つである一酸化窒素の産生を抑制します。
- 体内で発がん物質を無毒化する過程で、一時的に強い発がん性をもつ物質が生じることがありますが、これらを代謝する酵素を増やし、すみやかに反応させます。
プロモーション段階の抑制
- がん抑制遺伝子のp53遺伝子、RB遺伝子およびp16遺伝子を活性化すると考えられています。
- 現象としては、がん細胞の増殖活性の低下やアポトーシス係数の増加が認められました。
発がん抑制作用の in vitro 試験
発がんプロモーションに関連する試験
51種類のカロテノイドを用いて、発がんプロモーションを抑制する効果のスクリーニングテストを行ったところ、β-クリプトキサンチン、ルテインおよびラクツーカキサンチンの3つに効力が最も高いことがわかりました。この結果から、効力に必要な条件として、構造式で六員環の3位の水酸基が考えられました。
発がん抑制作用の動物試験
ラット/マウスを対象とした試験 (1)
β-クリプトキサンチンが、マウス皮膚、ラット大腸、マウス肺およびマウス膀胱の発がん抑制効果を有することが認められました。
ラット/マウスを対象とした試験 (2)
温州みかんエキスが、ラット大腸、マウス肺およびマウス舌の発がん抑制効果を有することが認められました。
発がん抑制作用の臨床ヒト介入試験
肝臓がんに関連する試験
ウイルス性肝硬変から肝細胞がんを発生する頻度は、年率で約7%です。C型肝炎から肝硬変になった患者において、β-カロテン、α-カロテンおよびリコピンが肝がんの発症を抑制することが見出されてきましたが、これらに加えてβ-クリプトキサンチンとイノシトールを含む温州みかんエキスの飲料を毎日摂取することで、さらに高い発がん抑制効果が得られることが明らかとなりました(2.5年間の研究で、コントロール群と比較して、肝がんの累積発症率が有意に低値となりました)。
なお、ウイルス性肝硬変患者では、β-クリプトキサンチンの血中濃度が低下することが認められています。
大腸がんに関連する研究
大腸がんのハイリスク者を対象とした調査が進められています。
発がん抑制作用の疫学調査
がん発症について、β-クリプトキサンチンの摂取量が少ない集団の危険率を1としたとき、β-クリプトキサンチンの摂取量が多い集団の相対危険率は下表のとおり低くなりました。この結果から、肺や食道、子宮頸部、膀胱などの臓器について発がん抑制効果が推測されました。
がんの種類 | 相対危険率1) | 論文掲載年 |
---|---|---|
肺がん | 0.76 | 2004年 |
肺がん | 0.71 | 2000年 |
肺がん | 0.42 | 2001年 |
肺がん | 0.63 | 2003年 |
食道がん | 0.16 | 2000年 |
子宮頸部がん | 0.4 | 2000年 |
膀胱がん | 0.74 | 2001年 |
1) β-クリプトキサンチンを摂取する量が少ない集団の危険率を1とした場合の比較値
参考文献
- 矢野昌充, 他:果樹研究所研究報告. 4:13~28, 2005.
- Tsushima M, et al:Biol Pharm Bull. 18(2):227~233, 1995.
- Nishino H, et al:Arch Biochem Biophys. 2008 Sep 30. [Epub ahead of print]
- 西野輔翼:β-クリプトキサンチン談話会要旨集:1~2, 2006.
- 田中卓二:β-クリプトキサンチン談話会要旨集:3~4, 2006.
- 矢野昌充:果樹試験研究推進協議会研究収録, 2007.