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糖化と皮膚老化

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糖化と皮膚老化

皮膚の構造と機能

皮膚は身体を包み込む袋のような臓器で、生体内部を衝撃、温度、紫外線、化学物質などの外部環境から保護する役割を担っています。皮膚は外側から表皮、真皮、皮下組織の3層からなり、各層に固有の機能があります(図1)。

皮膚の構造

図1. 皮膚の構造
(堀井ら, エイジングの化粧学(早稲田大学出版部)より)

表皮は皮膚の3層構造の最も外側にある平均0.2mm(掌や踵などの肥厚部では0.2~0.3mm)の層です。さらに表皮は4つの層に区別され、外側から角質層、顆粒層、有棘層、基底層と呼ばれています。最も外側の部分である角質層は、水をはじき、細菌やウイルスなどが体内に侵入するのを防ぐと共に、皮膚の内側にある筋肉や神経、血管などの器官を外傷から守る働きをしています。

角質層は死んだ細胞が集まった平らな層で、毛髪や爪にも含まれている成分であるケラチンというタンパク質でできています。角質層のケラチンは、古くなってはがれ落ちると下の層から新しい細胞が押し出されるようにして上がってきます。表皮層の内側には、皮膚の色を濃くする色素をつくっているメラニン細胞や皮膚の免疫機能にかかわるランゲルハンス細胞があります。

真皮は表皮の下にある2.0~3.0mmの層で、膠原繊維(コラーゲン線維)と弾性線維(エラスチン線維)、プロテオグリカン(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸など)などの細胞外マトリックスでできており、皮膚に弾力性と強さを与えています。真皮の乾燥重量の70%はコラーゲンが占め、皮膚に「はり」を与えています。一方、1~2%を占めるエラスチンは架橋構造を持ち、皮膚の「弾力性」を与えています。プロテオグリカンは多量の水分を抱えるゲルを形成し、皮膚に「うるおい」を与えています。その他、真皮内には触感、心地良さ、温度を感じる神経終末、体温調節や皮膚にうるおいを与え柔軟な状態に保つ働きを保つための分泌腺(汗腺、皮脂腺)、毛包、血管などがあります。

皮下組織は真皮の下にある脂肪層で、体を外気の熱や寒さから守ると共に衝撃に対するクッションの役割を担っています。また皮下組織中の脂肪細胞には脂肪が蓄えられ、エネルギーの貯蔵部位としての役割を果たしています。脂肪層の厚みは体の部分によって異なります。

皮膚の老化

人が初めて見た人の年齢を推定する場合は、皮膚の形状や色の違いを有力な情報の1つとして判断しています。これらは必ずしも実年齢を反映しているわけではありません。しかし、顔のように人目に触れ、露出の多い部位では、加齢による変化(老化)が顕著に現れ易いことも事実です。

1) 皮膚の表面形態「きめ」の低下

皮膚表面には毛穴(毛孔)を中心に縦横、放射状に走る皮溝と、それによって囲まれる皮丘からできる皮紋が作られています。若年者の皮紋は、細かく、凹凸が鮮明で、形状が整っており、皮膚に緻密な質感「きめ」を与えています。しかし、皮膚は加齢と共に皮溝が浅く不鮮明になると、毛孔の大きさが大きくなって皮紋が変化し、「きめ」の粗いざらざらした質感になります(図2)。皮紋の変化は、弾性線維の加齢に伴う変性、減少、消失が考えられています。

皮膚レプリカ画像による頬部皮膚表面形態の加齢変化

図2. 皮膚レプリカ画像による頬部皮膚表面形態の加齢変化
(堀井ら, エイジングの化粧学(早稲田大学出版部)より)

2) シワの増加

シワは、きめよりもマクロなレベルで生じる皮膚の形態変化で、ほぼ25歳以降に、目や口の周囲、額、首などの各部位に現れ、加齢と共に数や程度が増加していきます(図3)。シワの発生するメカニズムは必ずしも明確になっていませんが、顔面や首などでは筋肉の動きと密接に関係しています。また、日光の影響で強く現れるシワについては、皮膚が紫外線により柔軟性を失い、変形に対する復元力低下が影響していると考えられています。

目尻のシワの加齢変化
図3. 目尻のシワの加齢変化
(堀井ら, エイジングの化粧学(早稲田大学出版部)より)

3) 色調の変化「くすみ」の増加

皮膚の色調は主にメラニン(褐色)、カロチン(黄色)、ヘモグロビン(赤~青みを帯びた紅色)で決まります。さらに角質層の厚さや表面状態(きめ、シワ)などによる光の反射、吸収によっても左右されます。加齢に伴う色調の変化では、赤みの減少、黄みの増加、明度の低下が見られ、結果として皮膚が「くすむ」方向に変化します(図4)。くすみの要因は色素沈着、血流の低下、角質層の肥厚、タンパク質の変性(酸化、糖化)が関与していると考えられています。

皮膚色の加齢変化

図4. 皮膚色の加齢変化
(堀井ら, エイジングの化粧学(早稲田大学出版部)より)

4) 色素斑「シミ」の増加

シミには肝斑(皮膚医学としてのシミ)、雀卵斑(いわゆるソバカス)および老人性色素斑があります。老人性色素斑は日光露出部に現れる色素斑で、円形で境界が不鮮明な茶色~黒色の斑紋です。この色素斑は紫外線による色素細胞の異常で、30歳代(20%)から50歳以上(92%)に認められますが、まだ発生メカニズムの解明に至っていません。

5) 皮膚機能の低下

加齢と共に表皮では基底細胞の増殖が低下して表皮が薄くなり、角質層が新しく置き換わるのに要する時間(ターンオーバー時間)が延長します。真皮の線維芽細胞でも、増殖機能やマトリックス成分の合成能力が低下します。その結果、真皮が萎縮して、はりの無い皮膚へと変化します。細胞機能の低下は、ホルモンや増殖因子などの細胞調節機能因子が、皮膚細胞に対して十分に反応しなくなることが要因になっています。このような機能変化は、角質層が傷害を受けた時のバリア機能回復遅延、水分保持機能の低下(乾燥)、性ホルモンの分泌変化に伴う皮脂分泌量の変化、皮膚血流量の低下、脂質や糖質の代謝変化などが要因になっています(図5)。

加齢に伴う変化と皮膚老化

図5. 加齢に伴う変化と皮膚老化
(伊藤と松本, エイジングの化粧学(早稲田大学出版部)を改変)

皮膚老化と糖化

皮膚老化のメカニズムは、遺伝子に情報として組み込まれているとする「プログラム説」と、環境因子によって遺伝子やタンパク質などの生体成分に障害が蓄積すると共に遺伝子翻訳に誤りが生じるという「障害蓄積説」の2つが合わさったものとして理解されています。皮膚は外部環境に直接さらされていることから、紫外線、酸化、乾燥が老化の外部要因として大きな促進因子になっています。

一方、人は主に食物中の炭水化物を分解することによってエネルギー源としているため、生存期間の長さ(加齢)に伴うグルコースとタンパク質との反応(糖化)の影響を避けることができません。

血中のグルコース濃度(血糖値)は、健康な人で通常(食後2時間以降)およそ100~140mg/dLを維持しています。糖化は非酵素的な反応であるため、血糖値(グルコース濃度)およびグルコースとタンパク質との共存時間によって反応生成量が決まります。このため加齢に伴い、糖化により生体中に生成、蓄積するAGEs量が増加します。特に糖尿病を発症すると、血糖値が200mg/dL以上になる時間が長期間になるため、蓄積するAGEs量も健康な人と比べて顕著に多くなります。

皮膚中のAGEs量と加齢および糖尿病との関係を調査した結果、皮膚コラーゲン中のAGEs蓄積量が加齢と共に増加すると、糖尿病患者での蓄積量が同年齢の健常者よりも多いこと(図6)や糖尿病患者の皮膚弾力が健常者と比べて低下していること(図7)が確認されています。

加齢と糖尿病に伴う皮膚コラーゲン中AGEsの蓄積

図6. 加齢と糖尿病に伴う皮膚コラーゲン中AGEsの蓄積
(Dyerら,J. Clin. Invest.(1993)より)

糖尿病患者と非糖尿病患者の加齢に伴う皮膚弾力の変化

図7. 糖尿病患者と非糖尿病患者の加齢に伴う皮膚弾力の変化
(Kuboら, Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition(2008)より)

また糖化はメイラード反応とも呼ばれる褐変化反応であり、最終的にAGEsの生成に至る過程でタンパク質分子内および分子間に無秩序な架橋を作って物理的、生理的変化(変性)を起こすことが知られています(図8)。特に皮膚が糖化すると、皮膚色調のくすみやコラーゲン線維の弾力性低下による、はり、弾力性の低下が起こると推定されています。

AGEs生成によるコラーゲンの架橋形成

図8. AGEs生成によるコラーゲンの架橋形成
(Ceramiら, Sci. Am.(1987)を改変)

さらに加齢や糖尿病によって皮膚コラーゲンのプロテアーゼ(ペプシン)分解性が低下することから、糖化や酸化を受けたタンパク質はプロテアーゼによって分解されにくくなり(図9)、糖化がターンオーバー時間の遅延に関与しているとも考えられています。また老化タンパク質分解酵素の一種であるプロテアソームは、加齢により自身が酸化や糖化を受けると反応性が低下し、代謝回転を遅延させるといわれています(図10)。

加齢と糖尿病に伴う皮膚コラーゲンのプロテアーゼ分解性の低下

図9. 加齢と糖尿病に伴う皮膚コラーゲンのプロテアーゼ分解性の低下
(Schniderら,J. Clin. Invest.(1981)より)

タンパク質の代謝回転

図10. タンパク質の代謝回転
(後藤佐多良, 東邦大学バーチャルラボラトリー 健康長寿を改変)
参考文献
    1. 清水 宏,あたらしい皮膚科学
      http://www.derm-hokudai.jp/textbook/index.html
    2. 尾澤達也(編),エイジングの化粧学,214pp,早稲田大学出版部,2000.
    3. Dyer D.G. et al, Accumulation of maillard reaction products in skin collagen in diabetes and aging. J. Clin. Invest. 91: 2463-2469, 1993.
    4. Kubo M. et al, Anti-glycation effects of mixed-herb-extracts in diabetes and pre-diabetes. Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition, 2008, in press.
    5. Cerami A et al, Glucose and aging, Sci. Am. 256(5): 90-96, 1987.
    6. Schnider S.L. et al, Effect of age and diabetes mellitus on the solubility and nonenzymatic glucosylation of human skin collagen. J. Clin. Invest. 67: 1630-1635, 1981.
    7. 後藤佐多良, 生体分子に起こる加齢変化, 東邦大学バーチャルラボラトリー, 健康長寿 http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/aging/doc3/doc3-03-5.html

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