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糖化反応阻害剤(合成化合物、既存医薬品)

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糖化反応阻害剤(合成化合物、既存医薬品)

糖化反応阻害剤とは

生体内の糖化反応を阻止することは、糖尿病合併症や加齢に伴う動脈硬化、心筋異常などの発症・進展を防ぐ効果が期待されます。このため、世界各国においてさまざまな糖化反応阻害剤やAGEs生成阻害剤が開発検討されてきました。

そこで第8回と第9回の連載では、糖化反応阻害作用が報告されている代表的な化合物を紹介します。今回(第8回)は「合成化合物」と「既存医薬品」の糖化反応阻害剤について、第9回には「ビタミン類」と「その他の物質」の糖化反応阻害剤について紹介します。

現在、一部のビタミン類や既存医薬品に糖化反応阻害作用が報告されています。しかし、日本国内において糖化反応阻害薬として臨床応用されている医薬品はありません。

合成化合物

アミノグアニジン(Aminoguanidine)

アミノグアニジン(図1)は、糖化反応前期段階のアマドリ化合物や後期段階生成物である3-デオキシグルコソン分子内のカルボニル基に分子内のアミノ基が結合し、以降の反応の進行を阻止することで糖化反応阻害作用を示します。

アミノグアニジンの構造式

図1. アミノグアニジンの構造式

アミノグアニジンの薬理作用については、in vitroにおいて糖化反応によるAGEsの生成抑制とタンパク質の架橋・重合形成の抑制作用、および動物実験における腎症、網膜症、神経障害に対する予防・進展阻止効果が確認されています。

米国ではAlteon社(現Synvista社)が開発した医薬品Pimagedine(製品名)の大規模臨床試験が実施されています。この臨床試験(ACTION I trial)は1型糖尿病患者を対象として56施設、690名の被験者による、36ヵ月間に渡るもので、1日150mgまたは300mgのPimagedine(アミノグアニジン)投与において、尿タンパク排泄量の有意な減少、網膜症の進行抑制、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪の低下などの有用性が報告されています(図2)。

アミノグアニジン(Pimagedine)摂取による尿中タンパク排泄量の変動

図2. アミノグアニジン(Pimagedine)摂取による尿中タンパク排泄量の変動
(Bolton et al, Am J Nephrol (2004)より)

しかし、84施設、599名の2型糖尿病を対象とした臨床試験(ACTION Ⅱ Study)では、作用効果が不明瞭との勧告により中止されています。また、早期腎症を対象とした欧州での検討もプラセボ群の継続が困難なため中止になっています。さらに貧血、肝障害と同時に、ビタミンB6欠乏症などの副作用があるため、実用化に課題を残しています。

日本では山之内製薬㈱(現、アステラス製薬㈱)が臨床試験を実施しましたが1998年に開発が中止されています。このため、アミノグアニジンは日本国内においても、さまざまな効果が期待されながら実用化に至っていません。

OPB-9195(2-isopropylidenehydrazono-4-oxo-thiazolidine-5-ylacetanilide)

OPB-9195(図3)はグリケーション阻害性糖尿病治療剤として日本の大塚製薬㈱で開発されたチアゾリン誘導体化合物で、アミノグアニジンの1/10~1/20の低用量で糖尿病性腎症改善作用を示すことが報告されている薬剤です。

OPB-9195の構造式

図3. OPB-9195の構造式

OPB-9195をインスリン非依存型ラット(OLETF)に投与した結果、糖尿病性腎症(図4)や、腎症進展に重要な役割を果たしているTGB-β(Tumor Growth Factor-β)の産生を阻止することが明らかになっています。しかし、1999年の臨床試験準備段階で開発が中止され、実用化には至っていません。

OLETFラットへのOPB-9195摂水投与(1mg/mL)における尿中アルブミン排泄量の変動

図4. OLETFラットへのOPB-9195摂水投与(1mg/mL)における
尿中アルブミン排泄量の変動
(Nakamura S. et al, Diabetes (1997)より)

LR-90(methylene bis [4,4-(2 chlorophenylureido phenoxyisobutyric acid)])

LR-90(図5)は、AGEs阻害剤としてドイツのMerk社で開発された化合物で、in vitroにおいてアミノグアニジンよりも強い阻害活性を示す薬剤です。

LR-90の構造式

図5. LR-90の構造式

ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ラットに対する32週間の飲水投与実験(50mg/mL)では、尻尾コラーゲン中のAGEs生成の抑制、腎組織中へのAGEs蓄積抑制、腎皮質中のニトロチロシン量の低下作用が確認されています。

LR-90の作用は、主にカルボニル化合物捕捉作用、金属キレート作用によるものと推定されています。

ALT-946(N-(2-acetamidoethyl)hydrozinecarboximidamide hydrochlolide)

ALT-946(図6)は、米国のAlteon社(現Synvista社)が副作用の少ない薬剤開発を目指して、NO合成酵素阻害作用の無い糖化反応阻害剤として合成した化合物です。

ALT-946の構造式

図6. ALT-946の構造式

ALT-946をSTZ誘発糖尿病ラットに16週間あるいは31週間飲水投与(1g/L)した結果、腎糸球体中のAGEs蓄積、尿中アルブミン排泄および糸球体濾過能の上昇抑制作用が確認されています。

またレニン・アンジオテンシン系を過剰に発現させたトランスジェニックラットにSTZを注射して作った糖尿病モデルに対する投与試験でも、同様の作用が確認されたことから、ALT-946による糖化反応阻害作用が高血圧やアンジオテンシンⅡ増加を背景とする腎症に対しても有用であることが示唆されています。

既存医薬品

メトホルミン(metformin)

メトホルミン(図7)はフランスのMerck Sante社が開発したビグアナイド系の経口糖尿病治療薬で、インスリン分泌促進を伴わずに血糖降下作用を示す薬剤です。メトホルミンはその化学構造に複数のアミノ基を持つことを特徴としています。

メトホルミンの構造式

図7. メトホルミンの構造式

STZ誘発糖尿病ラットにメトホルミンを10週間、混餌投与(50~60mg/kg/日または500~650mg/kg/日)した結果、いずれの投与量でも水晶体、坐骨神経、腎皮質中のCML、ペントシジンの蓄積を抑制すると共に、坐骨神経伝道速度の低下を抑制したことが報告されています。

メトホルミンの糖化反応阻害作用は、血糖降下作用と共に、カルボニル化合物捕捉作用、金属キレート形成作用および抗酸化作用によるものと考えられています。

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬(ARB)

レニン-アンジオテンシン系をブロックする降圧薬のアンジオテンシン変換酵素阻害薬(angiotensin converting enzyme inhibitor:ACEI)とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬(angiotensin II receptor blocker:ARB)は、共に高血圧治療における有用性が世界的に確認され、臨床応用されている薬剤です。

ACEIには、テモカプリル(エースコール)(図8)、ペリンドプリル(コバシル)、カプトプリル(カプトリル)、エナラプリル(レニベース)、リシノプリル(ロンゲス/ゼストリル)、ベナゼプリル(チバセン)、イミダプリル (タナトリル)などがあります。

テモカプリルの構造式

図8. テモカプリルの構造式

また、ARBには、オルメサルタンメドキソミル(オルメテック)(図9)、ロサルタン(ニューロタン)、バルサルタン(ディオバン)、カンデサルタンシレキセチル(ブロプレス)、テルミサルタン(ミカルディス)、イルベサルタン(アバプロ/イルベタン)などがあります。

オルメサルタンメドキソミルの構造式

図9. オルメサルタンメドキソミルの構造式

これらのACEIやARBは血圧低下による糖尿病性腎症の進展抑制作用が知られていますが、その腎保護作用のひとつにAGEs蓄積阻害作用も考えられています。

ACEIであるテモカプリルとARBであるオルメサルタンメドキソミルは、in vitroにおいて、ペントシジン、CMLの生成をアミノグアニジンやピリドキサミンと同等に抑制すると共に、作用レベルは異なりますが、その他のACEIやARBにもペントシジン生成抑制作用が確認されています。

またオルメサルタンメドキソミルを自然発症高血圧肥満ラットに20週間経口投与(1または5mg/kg/日)した結果、腎臓でのペントシジン蓄積を低下させ、形態学的にも機能的にも腎症を軽減させたことが報告されています。

オルメサルタンメドキソミルのAGEs蓄積阻害作用は、レニン-アンジオテンシン系を介しない作用と考えられています。

参考文献
    1. 山岸昌一(編), AGEs研究の最前線 糖化蛋白関連疾患研究の現状, 231pp, メディカルレビュー社, 2004.
    2. Bolton W.K.et al,Randomized trial of an inhibitor of formation of advanced glycation endproducts in diabetic Nephropathy. Am J Nephrol, 24, 32-40, 2004.
    3. Nakamura S. et al, Progression of nephropaty in spontaneous diabetic rats is prevented by OPB-9195, a novel inhibitor of advanced glycation. Diabetes, 46(5), 895-889, 1997.
    4. Thirunavukkarasu V., Fructose diet-induced skin collagen abnormalities are prevented by lipoic acid. Experimental Diab. Res., 5, 237-244, 2004
    5. Ziegler D et al., Treatment of symptomatic diabetic peripheral neuropathy with the anti-oxidant alpha-lipoic acid. A 3-week multicentre randomized controlled trial (ALADIN Study). Diabetologia, 38(12), 1425-33, 1995.

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