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天然物中の糖化反応阻害成分

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天然物中の糖化反応阻害成分

糖化反応を阻害する成分を含む天然物は数多く報告されています。医学文献の検索データベース(PubMed)で「maillard x reaction x inhibitors」をキーワードに検索すると、約120件の論文および30件の総説が、同様に、特許情報検索システム(JP-NET)で「メイラード反応 + 糖化 x 阻害 + 抑制」等のキーワードで検索すると、440件程度の特許がヒットします。これらに記載されている天然物由来の糖化反応阻害成分は100種類以上あると推定され、その多くが植物由来です(2009年1月現在)。

植物抽出物中の抗糖化作用成分

近年、機能性素材市場では抗糖化作用を有する天然物が食品・化粧品原料および配合製品として供給され始めています。各素材や製品の抗糖化作用は、糖-タンパク質のin vitro反応系でのAGEs生成阻害作用で評価されていますが、実験系に使用されている糖とタンパク質の種類、濃度、反応温度・時間および評価に使用されているAGEsの種類や検出方法が異なるため、報告されている作用の強弱を単純に比較することができません。また、臨床評価例は極めて少なく、殆どの素材で有効性が明確になっていません。以下に比較的入手可能な素材について紹介します。

ローマカミツレ(花)

ハーブとして馴染み深いローマカミツレ(カモミール)の抽出液およびその成分中ポリフェノールの一種であるカマメロサイド(図1)には、in vitro反応系においてAGEsの一種である3DG、CML、ペントシジンの生成抑制作用が確認されています。

ローマカミツレに含まれるカマメロサイド

図1. ローマカミツレに含まれるカマメロサイド

また、これらには核内転写因子の一つであるNF-κBの抑制作用が報告され、細胞や組織傷害の軽減作用の存在が示唆されています(松浦, 2008)。さらに本ローマカミツレと、ドクダミ、セイヨウサンザシ、ブドウから成る混合ハーブ抽出エキスには、in vitro反応系、STZ誘発糖尿病ラットおよびヒト臨床試験において、AGEsの生成抑制作用などが確認されています(後述)。本混合ハーブエキス原料は「AGハーブMIXTM」として、アークレイ(株)より販売されています。

ヤマブドウ(果実)

ヤマブドウの果実には、アントシアニン、プロアントシアニジン、レスベラトロールなどのポリフェノールが大量に含まれています。この果実搾汁粕から熱水抽出した高ポリフェノールエキスにはアルドースレダクターゼ阻害活性、ラジカル消去活性と共に、AGEs生成阻害作用が報告されています。AGEs生成阻害作用にはフラバノールを主としたポリフェノール類が推定されています(小浜ら, 2006)。本ヤマブドウポリフェノールの研究は岩手大学と岩手県工業技術センターが中心になり、岩手県の地域ブランド食品創生事業として展開され、既にさまざまなヤマブドウ配合製品が開発されています。エキス原料は「ヱヴィノール」としてヤヱガキ醗酵技研(株)から販売されています。

トウモロコシ(花柱)

トウモロコシ(雌花)の花柱を採集し、乾燥させたものは「南蛮毛(ナンバンモウ)」または「コーンシルク(corn silk)」とよばれ、古来より利尿、降圧作用などの民間薬(生薬名「玉米鬚(ギョクマイシュ)」)として利用されています。このメタノール抽出物中にはフラボンの一種6-C-β-fucopyranoside(図2)が含まれ、in vitro反応系においてAGEsの一種であるCMLの生成抑制作用が確認されています。

トウモロコシ(花柱)に含まれる6-C-β-fucopyranoside

図2. トウモロコシ(花柱)に含まれる6-C-β-fucopyranoside

またSTZ誘発糖尿病ラットに対する投与試験において、腎重量および尿蛋白排泄量の増加抑制が報告されています(Suzuki et al, 2003, 2005)。本トウモロコシ花柱エキス原料は「コーンシルク」として福田龍(株)から販売されています。

セイヨウオオバコ(種子)

オオバコの成熟種子には古来より消炎、利尿、鎮咳去痰などの作用が知られ、生薬名を「車前子(シャゼンシ)」とよばれています。セイヨウオオバコ種子中ポリフェノール成分の一種であるプランタゴサイド(図3)にはペントシジンの生成抑制作用およびスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の活性低下抑制作用などが報告されています(松浦, 2008)。本セイヨウオオバコ種子エキスは化粧品原料「アブソレージ」として一丸ファルコス(株)から販売されています。

セイヨウオオバコ(種子)中に含まれるプランタゴサイドおよびそのアグリコン

図3. セイヨウオオバコ(種子)中に含まれるプランタゴサイドおよびそのアグリコン

オリーブ(葉)

オリーブ葉中にはオレウロペイン(図4)を主成分とするポリフェノール類が含まれ、抗酸化物質として働くことが知られています。

オリーブ葉中に含まれるオレウロペイン

図4. オリーブ葉中に含まれるオレウロペイン

オリーブ葉エキスにはin vitro反応系においてAGEsの一種であるCMLの生成抑制作用が確認されています。またオリーブ葉エキスとαリポ酸およびニガウリエキスからなる製剤のGKラットに対する投与実験では、血漿中CMLの低減作用が報告されています(佐々木ら, 2007)。本オリーブ葉エキスを含む健康食品は「糖下」としてアムスライフサイエンス(株)から販売されています。

チャ(葉)

緑茶(品種ヤブキタ)、ポーレイ茶など、茶葉熱水抽出物のin vitro反応系およびSTZ誘発糖尿病ラットに対する投与試験では、AGEs生成抑制作用が報告されています(Kinae et al, 1990,1994)。これらの作用は、茶葉抽出物中に含まれるカテキン類、特にエピガロカテキンガレート(EGCg:図5)が有する抗酸化性やラジカル捕捉能が、糖化反応系に対して還元剤として働き、活性酸素の生成を阻害した結果と考えられています。

チヤ(葉)抽出物中に含まれるエピガロカテキンガレート

図5. チヤ(葉)抽出物中に含まれるエピガロカテキンガレート

その他

黒大豆種皮ポリフェノールの一種であるクロマニン、セイヨウトチノキの種子エキス、ヨモギ抽出エキス、ルイボス茶などにもin vitro反応系においてAGEs生成阻害作用が報告されています。

ヒトに対して抗糖化作用を有する混合ハーブエキス

生体中の糖化反応は複雑多経路であるため、1経路の反応を阻害してもバイパス経路が活性化され、AGEsの生成を抑制することができません(図6)。

生体中の糖化反応経路

図6. 生体中の糖化反応経路三浦ら(2004)を改変

このため多経路の反応を多種類の成分で阻害することが、糖化反応系を広範囲に阻害することに繋がり、結果的に生体中の各種AGEsの生成抑制として有効に働く可能性があります。

前述のローマカミツレ(カモミール:花)、ドクダミ(地上部)、セイヨウサンザシ(果実)、ブドウ(葉)の熱水抽出エキスには、各々にin vitro反応系においてAGEsの生成中間体である3DGおよびAGEsの一種であるペントシジン、CMLの生成阻害作用が確認されています。混合ハーブエキス(製品名:AGハーブMIX)は、本仮説に基づいて設計された機能性食品素材です。

混合ハーブエキスはin vitro反応系において3DG、CML、ペントシジンの生成を濃度依存的に阻害し、糖化阻害作用を有する医薬品(国内未承認)である「アミノグアニジン」と同等の作用を有することが確認されています。

また、STZ誘発糖尿病ラットに対する投与試験においては、血中ペントシジンの生成、尿蛋白排泄、腎重量の増加抑制傾向を示したことから、糖尿病合併症の進展リスク低減に作用している可能性が報告されています(Yonei et al, 2008)。

混合ハーブエキスを糖尿病予備群が8週間摂取した試験(ダブルブラインド試験)では、高血糖あるいは高HbA1c群において血中3DGまたはCMLの増加抑制作用が確認されています。さらに、2型糖尿病患者の12週間摂取試験では、血中3DG、CML(図7)および尿中酸化ストレスマーカーの低下と共に、皮膚弾力の改善作用(図8)が確認されています(八木ら, 2007; 河合ら2007)。

2型糖尿病患者の摂取試験における血漿3DGとCML濃度の変動

図7. 2型糖尿病患者の摂取試験における血漿3DGとCML濃度の変動
一日600mg摂取(混合ハーブエキス原料「AGハーブMIX」として)

2型糖尿病患者の摂取試験における皮膚弾力の変動

図8. 2型糖尿病患者の摂取試験における皮膚弾力の変動
一日600mg摂取(混合ハーブエキス原料「AGハーブMIX」として)キュートメーターによる測定。皮膚弾力指数(R2)は1.0に近いほど弾性があることを示している。

本混合ハーブエキスの糖化阻害作用成分には、ローマカミツレ中のカマメロサイドおよび各構成ハーブ中のポリフェノール類の関与が推定されていますが、まだ明確になっていません。一方、ドクダミやローマカミツレなどは、古くから体感性を有するハーブとして知られています。これらを含む混合ハーブエキスには、加齢に伴うQOLの低下改善作用も認められています(高橋ら, 2007)。糖化反応阻害作用を応用する上では、ヒトに対する作用や体感性が重要なポイントになります。本混合ハーブエキスは、現在100種類以上あると推定される糖化反応阻害作用を有する天然物の中で、初めてヒトでの作用と体感性が確かめられた食品素材です(2009年1月現在)。

参考文献
    1. 繁田幸雄ら(編), 蛋白の糖化 AGEの基礎と臨床, 163pp, 医学書院, 1997.
    2. 山岸昌一(編), AGEs研究の最前線 糖化蛋白関連疾患研究の現状, 231pp, メディカルレビュー社, 2004.
    3. Yonei et al, Herbal extracts inhibit maillard reaction, and reduce chronic diabetic complications risk in streptozotocin-induced diabetic rats. Anti-Aging Medicine, 5(10), 93-98, 2008.
    4. Kinae et al, Inhibitory effects of tea extracts on the formation of advanced glycosylation products. The maillard reaction in food processing, Human Nutrition and Physiology, 221-226, 1990.
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    8. Suzuki et al, The favorable effect of Zea mays L. on streptozotosine induced diabetic nephrpathy. Biol Pharm Bull, 28(5), 919-920, 2005.
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    10. 松浦信康, メイラード反応と抗糖化天然資源, アンチエイジングヘルスフード, 水島 裕(編),サイエンスフォーラム, 125-133, 2008.
    11. 八木雅之ら, 混合ハーブエキスのメイラード反応阻害作用、日本薬学会第127年会要旨集、167, 2007.
    12. 河合博成ら, アンチエイジングの観点からみた混合ハーブエキスのヒトへの作用、日本薬学会第127年会要旨集、167, 2007.
    13. 八木雅之ら, ローマカミツレに含まれる「カマメロサイド」のアンチエイジング医療における有用性. aromatopia, 16(4), 26-29, 2007.
    14. 高橋洋子ら, 糖尿病予備軍を対象としたダブルブラインド並行群間比較試験による、混合ハーブエキスの有用性評価. 第7回日本抗加齢医学会総会 プログラム・要旨集, 164, 2007.

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