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糖化ストレスと皮膚老化

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同志社大学大学院 生命医科学研究科
糖化ストレス研究センター
八木雅之 先生 監修

糖化ストレスと皮膚老化

皮膚の構造と機能

 皮膚は生体の最外層に位置し、生体内部を衝撃、温度、紫外線、化学物質などの外部環境から保護する役割を担っている組織である。皮膚は外側から表皮(epidermis)、真皮(dermis)、皮下脂肪組織(subcutaneous fat tissue)の3層からなる 1)

 表皮は平均 0.2 mm の層をなす最も外側にある皮膚組織である。さらに表皮は 4 つの層からなり、外側から角層(stratum corneum)、顆粒層(granular cell layer)、有棘層(prickle cell layer)、基底層(basal cell layer)に区分される(図1)。最も外側に位置する角層は、水をはじき、細菌やウイルスなどが体内に侵入するのを防ぐと共に、体の内側にある筋肉や神経、血管などの器官を外傷から守る働きをもつ。このため生体保持には角層が最も重要な役割を果たす。また、表皮を構成する細胞の 95%は角化細胞で、表皮層の最下層で分裂し、成熟に伴い表層へ移行してくる。基底細胞が分裂し、娘細胞が生まれて表皮表面で脱落するまでの期間はターンオーバー時間(turnover time)と呼び、 40~56 日と言われている 2-3)

図1 表皮を構成する 4層構造

図1 表皮を構成する 4層構造
清水宏(2011)1) を改変

 角層は核の消失した細胞が約 10 層重なった膜状の組織で、表層から順に「垢」として剥がれ落ちる。角層は角化細胞が産生するケラチンや脂質など、さまざまな物質から構成されている。角化細胞は基底層で分裂し、ケラチンを産生しながら分化、成熟し、上層へと移行する。基底細胞ではケラチン5 とケラチン14、有棘層や顆粒層ではケラチン1 とケラチン10 が形成される。

 表皮層の内側には、皮膚の色を濃くする色素を作る色素細胞(melanocytes)や皮膚の免疫機能にかかわるランゲルハンス細胞(langerhans cell)、感覚受容細胞であるメルケル細胞(merkel cell)がある。

 真皮は表皮の下にある 2.0~3.0 mm の層状の組織で、表皮と基底膜によって隔てられている。解剖学的に真皮は乳頭層(papillary layer)、乳頭下層(subpapillary layer)、網状層 (reticular layer)の 3 層構造をとっている。真皮は皮膚に弾力性と強さを与えている。
 真皮を構成する成分としては線維性組織を構成する間質成分(細胞外マトリックス)と、その産生細胞などがある。間質成分の主成分は膠原繊維(主にⅠとⅢ型コラーゲン)であり、その他に弾性線維(エラスチン線維)、プロテオグリカン(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸など)などがある。

 真皮の乾燥重量の 70%はコラーゲンで皮膚に「ハリ」を与えている。一方、 1~2%を占めるエラスチンは架橋構造を持ち、皮膚の「弾力性」を与えている。プロテオグリカンは多量の水分を抱えるゲルを形成し、皮膚の「潤い」を与えている。その他、真皮内には触感、心地良さ、温度を感じる神経終末、体温調節や皮膚に潤いを与え柔軟な状態に保つ働きを保つための分泌腺(汗腺、皮脂腺)、毛包、血管などがある。

 皮下組織は真皮の下にある数 mm の脂肪層で、体の部分によってその厚みが異なる。体を外気の熱や寒さから守ると共に衝撃に対するクッションの役割を担っている。また皮下組織中の脂肪細胞には脂肪が蓄えられ、エネルギー貯蔵部位としての役割を果たしている。

皮膚の老化

    1. 「見た目の年齢」の低下

人が見た目で人の年齢を推定する場合、皮膚のシワ、ハリ、タルミ、色調、艶、肌のキメ(肌理)などを有力な情報源にしている 4)。見た目の年齢は必ずしも実年齢と一致しているわけでなく、実年齢が同じ人であっても生活環境、生活習慣、食習慣などによって見た目の年齢が大きく異なる。顔のように露出の多い部位では変化(老化)が現れ易い。また、実年齢よりも見た目の年齢の高い人ほど動脈硬化リスクが高い 5)

    1. 肌の「キメ」低下

皮膚表面には毛穴(毛孔)を中心に縦横、放射状に走る皮溝と、それによって囲まれる皮丘からできる皮紋が作られている。若年者の皮紋は、細かく、凹凸が鮮明で形状が整っており、皮膚に緻密な質感、すなわち「キメ」を与える。しかし、皮膚は加齢と共に皮溝が浅く不鮮明になると共に毛孔の大きさが大きくなって皮紋が変化し、キメが低下する。この状態の皮膚は粗いざらざらした質感となり、実年齢よりも老けて見える。

    1. シワの増加

「シワ」は「キメ」よりもマクロなレベルで生じる皮膚の形態変化で、30 歳頃以降に目や口の周辺、額、首などに現れる 6)。またシワは加齢と共に数や深さが増加する。顔面や首などにおけるシワの発生には、筋肉の動きや日光暴露が関係する。皮膚組織は紫外線によって線維の断裂を起こし、柔軟性を失い、変形に対する復元力が低下する。

    1. 色調の変化「クスミ」の増加

皮膚の色調は主にメラニン(褐色)、カロチン(黄色)、ヘモグロビン(赤~青みを帯びた紅色)で決まる。さらに角層の厚さや表面状態(キメ、シワ)などによる光の反射、吸収によっても左右される。加齢に伴う色調の変化では、赤みの減少、黄みの増加、明度の低下が見られ、結果として皮膚の色調がくすむ 7)。クスミの要因は色素沈着、血流の低下、角層の肥厚、皮膚蛋白の糖化や酸化が関与している。

    1. 皮膚機能の低下

表皮では加齢と共に基底細胞の増殖が低下して薄くなり、ターンオーバー時間が延長する 8)。真皮の線維芽細胞では増殖機能やマトリックス成分の合成能力が低下する。その結果、真皮が萎縮して、ハリのない皮膚へと変化する。細胞機能の低下はホルモンや増殖因子などが皮膚細胞に対して十分に反応しなくなることが要因になる。皮膚の機能変化は角層のバリア機能回復遅延、水分保持機能の低下(乾燥)、性ホルモンの分泌変化に伴う皮脂分泌量の変化、皮膚血流量の低下、脂質や糖質の代謝変化などが要因となる。

皮膚の糖化と老化

 真皮中の主成分であるコラーゲンやエラスチンなどは、半減期が長いため糖化を受けやすい 9-10)。通常、コラーゲンやエラスチンは組織中の線維形成過程においてリジンやヒドロキシリジン残基を介して線維化架橋を形成する。しかし皮膚組織で糖化が進行して蛋白のリジン残基にCMLが生成すると、蛋白のリジン残基では架橋形成が阻害される。このため糖化は皮膚の線維組織の安定性に大きな影響を及ぼす。

 日光弾力線維症(solar elastosis)は日光露光部の真皮に異常エラスチン線維が蓄積する状態を指す。これは紫外線に長期間暴露されたことによる顔面エラスチンの糖化が原因と考えられている。日光弾力線維症の状態は 30~40 歳以降の健常者において、程度の違いこそあるものの誰にでも起こり、顔面のシワやタルミ形成に関与している。健常者の顔面皮膚を抗CML抗体で染色すると、弾性繊維には 30~40 歳代から CML の蓄積が見られ、高齢になるとエラスチン線維全体に蓄積が見られるようになる(図2)11)。 CML化したエラスチンは好中球エラスターゼによって分解されにくく、凝集能の亢進、線維径の増加、弾性率や伸長率の低下を起こす。このためエラスチンの糖化は皮膚老化の原因となる。

図2 加齢と日光暴露に伴う皮膚中CMLの蓄積

図2 加齢と日光暴露に伴う皮膚中CMLの蓄積
A:エラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色, B:抗CML染色
写真Aの黒紫色に染まった箇所はエラスチン(弾性線維)を示す.
写真Bの濃く染まった箇所は CML の蓄積を示す.
多島新吾 (2013) 11) を改変

 一方、皮膚では比較的ターンオーバー期間の短い表皮にも AGEs の蓄積が見られる。表皮に含まれるケラチン10 には CML が蓄積する(図3)12)

図3 表皮中の CML蓄積

図3 表皮中の CML蓄積
皮膚組織染色像(71歳女性、腹部)
K10 : cytokeratin 10
CML(赤:抗CML抗体染色)+ K10(緑:抗K10抗体染色)→ 合成像(黄)
Kawabata K, et al (2011)12) を改変

 さらに皮膚最外層に位置する角層中にも CML の蓄積が見られる。 CML の蓄積量が多い角層は肌のキメが低下している(図4)13)。さらに角層CML の蓄積が皮膚表面の溝の等方性低下、皮膚表面の算術的粗さ指数の低下に関連することから、角層中の CML 蓄積は老け顔への変化に関与していると考えられている。また角層中CML の蓄積量の増加が皮膚弾力性の低下と関連すると共に、皮膚中蛍光性AGEs の蓄積量とも相関性を示す 14)

図4 角層中の AGEs蓄積

図4 角層中の AGEs蓄積
A , B ; 抗AGEs抗体染色, C,D ; 皮膚表面レプリカ像
A,C ; 角層AGEsの少ない同一被験者, B,D ; 角層AGEsの多い同一被験者
五味貴優(2011)13) を改変
参考文献
    1. 清水宏:新しい皮膚科学 第2版, 2011, 中山書店.
    2. Halprin KM, et al. : Br J Dermatol 1972 ; 86 : 14-19.
    3. Iizuka H, et al. : J Dermatol Sci. 1994 ; 8 : 215-217.
    4. 山田秀和:見た目のアンチエイジング, 2011, 文光堂.
    5. Kido M, et al. : Geriatr Gerontol In 2012 : 12 : 733–740.
    6. Ichihasi M, et al. : Anti-Aging Medicine. 2011 ; 8 : 23-29.
    7. 小澤達也:エイジングの化粧学. 1998, 早稲田大学出版部.
    8. Baumann L : J Pathol. 2007 ; 211 : 241-251.
    9. Dyer DG, et al. : J Clin Invest. 1993 ; 91 : 2463–2469.
    10. Mizutani K, et al. : J Clin Invest. 1997 ; 108 : 797–802.
    11. 多島新吾:アンチエイジング医学. 2013 ; 8 : 35-41.
    12. Kawabata K, et al. : Biochimica et Biophysica Acta. 2011 ; 1814 : 1246–1252.
    13. 五味貴優:BIO INDUSTRY. 2011; 28 : 20-26.
    14. 八木雅之ら:第14回日本抗加齢医学会総会要旨. 2014.