学術情報
糖化ストレスと統合失調症
糖化ストレスと統合失調症
統合失調症とは
統合失調症(schizophrenia)はおよそ100人に1人の頻度で罹る疾患のひとつで、大うつ病 (major depression)、双極性障害(bipolar disorder)などの気分障害(mood disorder)と同じ精神性疾患である。統合失調症は幻覚や妄想という症状を特徴とする。患者は人々と交流しながら家庭や社会で生活を営む機能に障害を受け、「感覚・思考・行動が病気のために歪んでいる」ことを自分で振り返って考えることが難しくなる。疾患の進行は慢性経過をたどりやすく、その間に幻覚や妄想が強くなる急性期が出現する。2011年の患者調査(厚生労働省)によると、医療機関を受診している精神性疾患の入院患者数は22.4万人で、そのうち統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害が13.8万人とされ、決して数少ない疾患でない1)。統合失調症の一般的認知が低い理由には、症状がわかりにくいこと、社会的偏見を受けていること、治療法が対処療法的薬物療法しかないことなどがあげられる。
統合失調症とAGEs
統合失調症では第6番染色体との関連性が多数報告されている2)。この染色体にはグリオキサラーゼ1(glyoxalase 1 : GLO1)とよばれる酵素遺伝子が存在する。グリオキサラーゼは酸化ストレスや糖化ストレスから生じる糖化反応中間体のひとつであるカルボニル化合物を分解する。カルボニルストレス性の統合失調症患者では GLO1遺伝子にフレームシフト変異があり、 GLO1 の発現が健常者の50%まで低下していることが、統合失調症多発家系の発端者の DNA解析から明らかになっている2)。本症例患者では血中AGEs の一種であるペントシジン濃度が健常者の3.7倍に増加していること、さらに生体内においてグリオキサラーゼと同じカルボニル消去活性を有するビタミンB6 が20%に低下していることも確認されている。また糖尿病、腎障害、炎症性疾患をもたない統合失調症患者の調査でも、血中ペントシジン濃度が有意に上昇し、ビタミンB6 濃度が有意に低下していることが確認されている (図1)3)。
図1 血漿中ペントシジンと血清中ピリドキサール(ビタミンB6)量
A:ペントシジン, B:ピリドキサール(ビタミンB6)
Arai M, et al (2010)3)
糖化ストレス抑制による統合失調症の治療の可能性
カルボニルストレス性の統合失調症患者では、血中ビタミンB6 の低下がみられることから、ビタミンB6 の補充療法に有効性が期待されている。ビタミンB6 にはピリドキシン(pyridoxine)、ピリドキサール(pyridoxal)、ビリドキサミン(pyridoxiamine)の3物質があり、溶液中で互いに平衡関係にある(図2)。
図2 ビタミンB6の構造式
このうちピリドキサミンはカルボニル消去作用を有する4)。このためピリドキサミンには生体の糖化、酸化によるカルボニルストレスの抑制による統合失調症の改善が期待されている(図3)5)。現在、統合失調症患者に対するピリドキサミン投与の臨床試験が実施されデータ解析中である6)。
図3 血漿中ペントシジンと血清中ピリドキサール(ビタミンB6)量
A:ペントシジン, B:ピリドキサール(ビタミンB6)
Arai M, et al (2010)3)
参考文献
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- 平成23年患者調査, 2008, 厚生労働省
- Turecki G, et al. : Am J Med Genet. 1997 ; 74 :195–198.
- Arai M, et al. : Arch Gen Psychiatry. 2010 ; 67 : 589-597.
- Voziyan PA, et al. : J Biol Chem. 2002 ; 277 : 3397-3403.
- 新井誠ら:精神経誌. 2012 ; 114 : 199-208.
- 糸川昌成ら:日本抗加齢医学会誌. 2012 ; 8 : 49-54.