学術情報
糖化ストレス対策 (4)食事由来の AGEs
糖化ストレス対策 (4)食事由来の AGEs
食品中の AGEs
食品中には還元糖やカルボニル化合物、アミノ酸、蛋白が多く含まれるため、調理、加工、保存中に糖化反応が進行する。これらは一般に食品の褐変化反応として知られている。食品の褐変化反応については、さまざまなモデル反応系や食品を用いた反応機構の解明、褐変化物質の分離・同定などが行われている 1)。食品の糖化は原材料や調味料として使用された糖類に含まれるフルクトースや糖質の分解によって生成した還元糖とアミノ酸や蛋白が非酵素的に反応し N-glucoside を生成することから始まる(図1)。その後アマドリ転移によって N-fructoside を生成し、さらに脱水、脱アミノ化反応によってオソン(osone) やフルフラール(furfural)などのカルボニル化合物を生成する。生成したカルボニル化合物は糖化反応の中間体になり、再びアミノ化合物と反応し、縮合・重合によって高分子の褐変化物であるメラノイジン(melanoidin)を生成する。メラノイジンは単一化合物でなく、起源となるアミノ化合物や反応条件によって構造や重合度が異なり、正確な定量が困難な物質である 2)。
図1 食品の褐変化における糖化反応
(本間清一 (2005) 1) を改変)
食品中には多くの糖化物、糖化反応中間体、 AGEs が含まれる(表1)3)。また食品中の CML は加熱調理の過程において生成する(表2)3-4)。このため我々は食品を通して日常的に AGEs を摂取していることになる。食品中の AGEs には生体にとって無害なものだけでなく、活性酸素の生成や糖尿病合併症などの慢性疾患の進展に関与する可能性をもった化合物がある。食品からの AGEs摂取は心臓病、アルツハイマー病、糖尿病合併症など、加齢との関わりが強い疾病の発症に関与している。また食事からの AGEs摂取を制限することは寿命の延長に関与することが動物実験において確認されている 5)。さらに食品を加熱調理するとAGEsの類縁体であるヘテロサイクリックアミン(heterocyclic amine)やアクリルアミド(acrylamide)などの変異原性や発がん性を有する化合物が生成することも知られている。
表1 食品中の糖化反応生成物含有量
(木苗直秀 (2013)3) を改変)
表2 食品中の CML含有量
(木苗直秀 (2013)3) を改変)
このように食品中のカルボニル化合物や AGEs は各種疾患との関連性が想定されることからグリコトキシン(glycotoxin)とよばれている。
食事由来AGEs の吸収・排泄
食品中の AGEs摂取と排泄の関係についてはいくつかの報告がある。7名の健康な男女に3日間、焼いた食品、パン類、ビール、コーヒーなど、 AGEs を多く含む食品の摂取を制限したところ、尿中ピラリン量が非制限期間と比べて制限期間中に低下した。このことから尿中への AGEs排泄量は食事の内容に反映され、食事由来AGEs と尿毒症との関連性が示唆された 6)。
また末期腎不全患者(end-stage renal disease:ESRD)では摂取した食事中の AGEs量と血清CML量、さらに血清中の CML またはメチルグリオキサール量と BUN(blood urea nitrogen:血中尿素窒素)が相関性を示すことから、食事中AGEs の制御が病態管理に重要であるとされた 7)。
さらに卵白(蛋白量 55.5 g)にフルクトース(100 g)を添加して加熱調理(90℃, 1~3時間)した高AGEs食(1617 units AGE/mg)または卵白のみの低AGEs食(7.0 units AGE/mg)を 38名の糖尿病患者と 5名の健常者が摂取した後、食後48時間の血中および尿中AGEs量を測定した結果、食事から血中に移行する AGEs は腎症を有する糖尿病患者で 30%、健常者で 10%とした 8)。さらに健常者では血中に移行した AGEs のうちの 1/3(3%)が 48時間以内に尿中へ排泄され、 2/3(7%)が体内に残留するとした(図2)。
図2 食事由来AGEsの吸収・排泄
(Koschinsky T, et al. (1997)8)を改変)
食事由来AGEs の抑制
食事由来の AGEs の体への影響を抑えるには AGEs生成の少ない調理法の選択、食事由来AGEs の体内への吸収を抑制することが考えられる。
各種食品中の CML量を測定した調査結果では、脂肪や肉が炭水化物よりも高値を示した 9)。また調理法では同じ食材においてもボイルがフライやローストよりも AGEs を生成しにくいことが示されている。さらに肉をローストする場合、予めレモン果汁や酢で 1時間処理することで、生成する AGEs を 1/2 にすることができる(図3)10)。また鶏肉団子を鰹節、昆布、煮干などの出汁中で加熱調理した場合は、温水調理と比べて荒節だし>枯節だし>煮干だし>昆布だし>椎茸だしの順に鶏肉中CML の生成を強く抑制することがわかった 11)。
図3. 調理法の違いによる牛肉中のAGEs生成量(Uribarri J, et al. (2010)10))
酢(A)またはレモン果汁(B)を使用して、牛肉25gを150℃で15分間ロースト調理
1.牛肉(生)
2.酢またはレモン果汁を使用せず牛肉をロースト調理
3.酢またはレモン果汁10mLに1時間浸漬後、ロースト調理
一方、食事由来AGEs の体内への吸収を抑制する医薬品としてはクレメジン(Kremezine)が知られている。クレメジンは石油系炭化水素由来の球形微粒多孔質炭素を高温で酸化および還元処理して得られた球形吸着炭で、慢性腎不全における尿毒症毒素を消化管内で吸着して便とともに排泄されることにより、症状の改善及び透析導入の遅延を目的に使用される経口薬である。クレメジン 6 g/日を糖尿病性腎症患者が 3ヶ月間摂取した試験では、血中CML の低下が確認されている 12)。さらに鉄結合蛋白であるラクトフェリンは AGEs結合性を有するため、食事と共に摂取することで消化管内の AGEs を捕捉して排泄する可能性が示されている 13)。
以上のように食品中の AGEs は健常者において、その約7%が体内に残留する可能性がある。また腎機能が低下している糖尿病患者では尿への AGEs排泄機能が低下しているため高AGEs食の摂取には注意が必要である。一方、食品の加熱調理や加工は風味や色目の付与により美味しさを向上させ、さらに保存性の向上に繋がる。食品中に生成する AGEs量は素材や調理法の選択によって低減させることが可能であり、 AGEs吸着排泄素材の可能性もある。このため食品中AGEs の影響対策は食生活全体で考える必要がある。
参考文献
- 本間清一:日本栄養・食糧学会誌. 2005; 2: 85-98.
- 本間清一:澱粉科学, 1991 ; 1 : 73-79.
- 木苗直秀:AGEsと老化, メディカルレビュー社, 2013 ; 39 : 37-46.
- Assar S.H. et al. : Amino Acids, 2009; 36: 317-326.
- Luevano-Contreras C et al:Nutrients, 2010; 2: 1247-1265.
- Foerster A, et al.:Biochem Soc Trans, 2003; 31: 1383-1385.
- Uribarri J, et al.:Am J Kidney Dis, 2003; 42: 532-538.
- Koschinsky T, et al.:Proc Natl Acad Sci USA, 1997; 94: 6474-6479.
- Uribarri J, et al.:Ann. N.Y. Acad. Sci, 2005; 1043: 461–466.
- Uribarri J, et al.:Am Diet Assoc. 2010; 110(6): 911–916.
- 山田 潤ら:2014年度日本調理学会講演要旨
- Ueda S, et al.:Mol Med, 2008; 2(7-8): 180-184.
- 井上浩義, 食品工業, 2008; 6: 26-31.